Introduction: スピログラフよりも多様なパターンを描ける描画機械

English version is here.

スピログラフで遊んだことがありますか?

歯車に空いた穴にペン先を入れてぐるぐる回すと幾何学模様が描ける、あの玩具です。

単純なスピログラフで描ける模様は変化に乏しいのですが、Wild Gearsはその問題の一つの解決策です。私も3Dプリントして試してみたのですが、最後まで歯車が外れない様に模様を描くのはなかなか大変でした。そこで歯車を回すだけで似た模様を描ける機械を作ることに取り組みました。二ヶ月以上、試作を繰り返して完成したのがここで紹介する機械です。

Supplies

3Dプリント部品

この機械には五種類の歯車を使います。センターギアとピニオンギア、サイドギア、太陽ギア、惑星ギアの四種類です。この中で太陽ギアと惑星ギアの二種類は共通で使える様にしました。

模様のバリエーションを増やすには、様々な歯数の歯車が必要です。それに加えて歯車以外の構造部品も必要です。そのため印刷する部品が約70種類となりました。したがって個々の部品をここに載せるよりも、スライサーで読み込めるファイルをダウンロードした方が簡単です。

BambuStudio用の印刷プロファイルは以下のウェブサイトで公開しています。

  1. https://makerworld.com/ja/models/1307548-second-order-roulette-drawing-machine

PrusaSlicer用のファイルは以下のウェブサイトで公開しています。

  1. https://www.printables.com/model/1255995-second-order-roulette-drawing-machine

その他の部品

  1. 直径6mm、厚さ3mmの丸型磁石:8個
  2. 紙を固定するために使います。
  3. M3x8mmのキャップボルト:5個
  4. M3x12mmのキャップボルト:1個
  5. M3ナット:7個
  6. 直径6mmの鋼球:4個
  7. R188ベアリング:1個
  8. https://www.amazon.co.jp/dp/B0CMJ2K8K1
  9. ボールペンの替え芯:1個
  10. ゼブラのサラサを推奨します。私が購入したのはRNJK5-BKRBLG-8AZです。
  11. https://www.amazon.co.jp/dp/B0D631QZ39

Step 1: 組み立て手順

組み立て手順をテキストで説明すると長くなるので、ビデオを用意しました。

Step 2: ピニオンギアについて

ピニオンギアは重要です。省略すると描かれる模様が変わってしまいます。開発中に描かれる模様が想定しているものと異なる問題が発生して悩んだのですが、原因がこれでした。

Step 3: 図形を変化させる方法

歯車を変えれば図形が変わることは冒頭の動画で示したとおりです。

それ以外にも以下の方法があります。

  1. ペンの位置を変える
  2. 惑星ギアの位相を変える
  3. サイドギアの位相を変える
  4. 惑星ギアのバー固定位置を変える

サイドギアと太陽ギア、惑星ギアで生み出した動きをいかに紙の上まで並行移動させるか、というところに開発中は苦労しました。最初はリニアガイドを使ったのですが、斜めに力が加わると全然動いてくれないので、この方式は断念しました。次にパンタグラフを使う方式を考えたのですが、機械が非常に大きくなってしまうので不採用としました。

結局うまくいったのはサイドギアと太陽ギア、惑星ギアのペアを二つ用意するというスマートさに欠ける方法でした。しかし、そのおかげで「惑星ギアの位相を変える」、「サイドギアの位相を変える」という方法が可能になったので、この方法にも利点はありました。

Step 4: ペンの位置を変える

この方法は単純ながら効果的で、Wild Gearsではできないやり方です。ペンホルダーをスライドさせて生まれる図形の変化と、歯車の異なる穴にペン先を入れて生まれる図形の変化は異なるものなのです。

この方法では、ペン位置をアナログ的に決めているので、同じ図形を生み出すことは難しくなっています。

一本のリフィルをセットできるペンホルダーを使い、位置を変えながら何回か描画することもできますし、複数のリフィルをセットできるペンホルダーを使っていっぺんに描画することもできます。

Grapherのアニメーション機能を使えば、ペン位置と図形の関係を把握できます。これは後で説明します。

Step 5: 惑星ギアの位相を変える

Step 6: サイドギアの位相を変える

Step 7: 惑星ギアのバー固定位置を変える

これはスピログラフでボールペンのペン先を入れる穴を変更することに相当します。

Step 8: ボールペンの替え芯について

どのインクでもうまくいくわけではない

リフィル選びには苦労しました。多少の違いはあるとしても、どれを使っても模様を描く上で問題はないだろうと考えていました。甘かったです。

開発の初期段階では三菱のジェットストリームを使っていたのですが、インクが過剰に出てしまったため、いろいろな替え芯を試すことになってしまいました。次に試したのが、パイロットのアクロインキ、ペンテルのエナージェル、ゼブラのサラサです。うまく機能したのはサラサだけでした。

どの製品も手書きでは問題ありません。この描画機械で使うとうまくいかないという話です。

パイロットのアクロインキを使ったボールペン替え芯はインクが過剰に出てしまい、模様を描き終わった地点にインクが溜まって、紙を汚してしまいました。

ペンテルのエナージェルはインクが少なく、線が途切れてしまいました。

サラサがうまくいったのは水性インクだからかもしれません。サラサを入手できない場合、油性インクではなく水性インクを試した方が良いでしょう。

太いシャープペンシル芯

直径2mmのシャープペンシル芯も試してみました。しかしHBでも2Bでも模様が薄くなってしまい残念な結果となったので、不採用としました。

シャープペンシル芯には使っているうちに先端が丸くなる、全体が短くなるという問題があるので、それも採用しなかった原因です。

替え芯の固定方法

替え芯の固定も、最初はネジ式にしていたのですが、最適な高さに調整するのが難しいので、バネ式に変更しました。バネはPETGでしか確認していないので、別の材質ではうまくいかない可能性があります。

替え芯のサイズ

替え芯のサイズは直径3mm、長さ98.2mmを想定しています。多色ボールペン用の細い替え芯です。

Step 9: テーブルの大きさ

テーブルは直径180mm, 150mm, 120mmの三種類を用意しました。

180mmは小型の3Dプリンターで印刷できる限界から決めました。150mmはA4用紙から二枚の円を切り取れるサイズ、120mmは三枚の円を切り取れるサイズということから決めました。

紙を丸く切るにはサークルカッターを使うと便利です。私はオルファのラチェットコンパスカッターを使っています。

  1. https://www.olfa.co.jp/products/742.html

Step 10: 歯数の違う歯車を作るのに必要な情報

歯車の種類はかなり用意しましたが、これだけでは不十分だと考えています。異なる歯数の歯車が欲しくなる場合もあると思いますので、作成に必要な情報を公開します。

歯車はAutodesk FusionのHelical Gear+アドインを使って作成しました。

歯車の厚みは5mmに設定しています。ただし、センターギアのみ5.2mmです。

Moduleは1mmで統一し、Helix angleを0 degreeにして平歯車を作成しています。バックラッシは0.4mmに設定しています。

アドインで歯車を作成した後の加工方法については、f3dファイルを見て調べてください。

Step 11: 単純化

「no gear shaft」と「no gear shaft base」を使えば、歯車を二組から一組に変えて単純化することができます。supporter guideとの接続にはM3x12mmのボルトを使ってください。

Step 12: 曲線の形を事前に確認する

macOSに付属しているGrapherというアプリケーションで、この描画機械で描く曲線を再現できるようになりました。「144_140_63_36.zip」を添付しようとしたのですが、InstructablesではできなかったのでPrintablesからダウンロードしてください。FilesセクションのOther filesにあります。

  1. https://www.printables.com/model/1255995-second-order-roulette-drawing-machine/files

ただしサイドギアの初期位相がゼロである場合に限定されます。

Grapherを使えない場合は、数式を入力してグラフを描けるソフトを探してみてください。

曲線の形はほぼ再現されていると思います。パラメータの意味は以下の通りです。

歯車の歯数

n0からn3は歯車の歯数を入力してください。n0がセンターギア、n1がサイドギア、n2が太陽ギア、n3が惑星ギアです。

惑星ギアの初期位相

t3iniには惑星ギアの初期位相を入力してください。単位はラジアンです。

ネジの位置

pは惑星ギアに取り付けるM3x12mmのネジの位置を表す値です。惑星ギアの中心からネジまでの距離を、惑星ギアの半径で割った値を入力してください。

各惑星ギアのpの最大値の一覧を画像として添付します。ネジを最も外側に取り付けると、この値になります。

ペンの位置

offsetの値を変更することは、ペンの位置を変更することに相当します。曲線の大きさがテーブルの大きさを超えない範囲で変更してみてください。再生ボタンをクリックすれば、offsetの値の影響をアニメーションで確認できます。

センターギアの回転数

Tはセンターギアの回転数を表します。何回転させれば良いのかを計算する式は存在するのですが、Grapherで最大公約数を求める関数が使えなかったので、計算できませんでした。仕方がないので、大きめの数値を入れてあります。足りなければ増やしてください。

Step 13: ペンの位置が図形に与える影響

歯数がそれぞれセンターギア:144、サイドギア:140、太陽ギア:63、惑星ギア:36である場合に、オフセットを0から28まで変えると、図形がこのステップのアニメーションの様に変化します。

Step 14: 参考にした情報

この描画機械を作成するにあたり、以下のブログを参考にさせていただきました。

  1. https://glagolj.github.io/gg-blog/

Wild Gearsを使って描いている様子を、以下のウェブサイトで見ることができます。

  1. https://spirographicart.com/2021/03/02/wheel-within-a-wheel-exploration-with-wild-gears/